書籍紹介  ・最近読んだ本/お薦(すす)めの一冊(3)   



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(C)角川書店
『銀の匙(さじ)』

中勘助(なか かんすけ)・著
角川文庫/1989年(平成元年)5月初版発行/定価\380

 2003年に岩波書店が行った「読者が選んだわたしの好きな岩波文庫100」というフェアで、第1位「こころ」 、第2位 「坊ちゃん」 (以上、夏目漱石)についで、第3位に入った小説。中勘助が27歳の大正元年(1912)に書き上げ、夏目漱石の推薦によって「東京朝日新聞」に連載された小説で、現在、岩波書店と角川書店から文庫本が出版されています。200ページほどのそう厚くない文庫本です。古い机の引き出しの中から幼いころ薬を飲むために使った銀の匙が見つかり、その想い出とともに、明治時代中期の幼児期から17才の青春期までを回想する自伝風の小説です。病弱だった主人公は、もっぱら伯母さんに育てられます。伯母さんに連れられてよく行った神田明神の祭礼や小石川に移ってはじめて知った屋敷町、閻魔(えんま)様や大日(だいにち)様の縁日、貞ちゃんと遊んだ少林寺のお寺などの四季折々の風情を歳時記風に描きながら、豊かな感性と深い洞察力で幼少年期の多感な感触が感じ取った真実を美しく精巧なタッチで描ききっていきます。いつまでも読み継がれて欲しいと思う黄金の一冊です。(2003.10.21)→ 〔読書感想〕


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(C)新潮社
『バカの壁』

養老孟司・著
新潮新書/2003年(平成15年)4月発行/定価\680

 ミリオンセラーになって、今なおベストセラーNo1を続けている。私たちはいつのまにか様々な「壁」に囲まれてしまい、話しが通じない、思いが通じない、真実が見えないようになっています、そして、いつのまにか考えなくなっている、と著者は指摘します。『バカの壁』はだれにでもあるのだということを思い出してもらえれば、ひょっとすると気が楽になって、わからなかったことが逆にわかるようになるかも知れません、と著者は言います。知識と常識の違い。わかるということ。脳の中の係数。個性と共通了解。変わっていく人間と変わらない情報。知るということ。個性より大切なもの。なぜ人間は非常に余計なことを考えるのか。現代人プラスα の人間。身体を忘れた日本人。理想の共同体。人生の意味。人間の常識などなど、人生でぶつかるいろいろな問題について、多様な角度から考えるためのヒントを提示してくれます。目からウロコが落ち、はっと目が覚めた思いがしました。(2003.09.30)


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(C)新潮社
『風の盆恋歌』

高橋 治・著
新潮文庫/1987年(昭和62年)8月発行/定価\438

 青春時代をともに過ごした都築とえり子は、互いに惹かれながらふとした行き違いで別々の相手と結婚する。20年振りにパリで再会したえり子は、都築にもう一度風の盆に連れて行ってくれと頼む。それから数年後、都築は八尾の諏訪町で売りに出されていた一軒家を購入し、風の盆の三 日間だけを八尾で過ごすようになる。ぼんぼりに灯がともり、胡弓の音が流れるとき、風の盆の夜がふける。越中おわらの祭りの夜に、死の予感にふるえつつ忍び逢う一組の男女。お互いに心を通わせながら、離ればなれに20年の歳月を生きた男と女がたどる、あやうい恋の旅路を、金沢、パリ、八尾、白峰を舞台に美しく描き出す、直木賞作家高橋治の長編恋愛小説。(解説/加藤登紀子)



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本の表紙とは関係ありません
『約束の冬(上・下)』

宮本輝・著
文藝春秋/2003年5月30日発行/定価各\1550


「空を飛ぶ蜘蛛(くも)を見たことがありますか? ぼくは見ました。十年後の誕生日に僕はあなたを待ちます。」15歳の少年・俊国(としくに)は、22歳の留美子にそんな手紙を渡して立ち去ります。この冒頭部分の文章に、宮本輝の前作「星宿海への道」のようなドラマチックな筋書きを予 感しますが、話しはむしろいたって日常的な物語が淡々と進行します。登場人物は、それぞれに約束を持っていて、それぞれの約束を果たすために真摯(しんし)に生きようとします。悪い人物は一人も登場しないので、筋書きに物足りなさを感じる読者の方もいらっしゃるかも知れません。著者が、あとがきで、「現代の若者たちはいかなる人間を規範として成長していけばいいのか・・・。私は小説家なので、小説として具現化していかなければならない・・・・」と書いているように、この本は、「けなげさ」に、より「よく生きよう」とする人々への静かな賛歌の物語のようです。随所に、「いい大人のいい趣味」が出てきます。亡父が年代ものの古材で建てたという留美子の家の書斎の穴倉に入ってみたい。登場人物と一緒に銀座の「とと一」で食事して見たい、一緒にゴルフコースに出てみたい、源氏物語を読まなくっちゃ、徒然草を読み直して見たい。そんな心豊かにさせる本です。※真摯(しんし)=まじめで、ひたむきなさま。


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(C)新潮社
海辺のカフカ(上・下)』

村上春樹・著
新潮社/2002年9月10日発行/定価各\1600


 15歳になった誕生日の夜、少年は一人夜行バスに乗って家を出た。生き延びること、それが彼のただ一つの目的だった。一方、ネコと話しができネコ探しの名人であるナカタ老人は、何かに引き寄せられるように星野青年と共に西に向う。  あなたは、この本をどう読むでしょうか? 何を感じるでしょうか? 何を読み取るでしょうか? 他の人は、この本をどう読んだのでしょうか? 2002年初夏〜2003年2月の間、『海辺のカフカ』公式サイトを通じて、読者から著者村上春樹氏のもとへ、多数の質問、感想のメールが寄せられました。13〜15歳の少年少女から70歳の読者まで、日本国内外のいろいろの人たちから寄せられた怒濤のメール1220通が、マガジン『少年カフカ』(2003年6月・新潮社)となって刊行されました。 『海辺のカフカ』を読んだ後、あわせて読むと、二度も三度も楽しめます。


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(C)新潮社
『橋ものがたり』

藤沢周平・著
新潮文庫/1992年3月10日第19刷/定価\440


 様々な人間が行き交う江戸の橋を舞台に演じられる、出会いと別れ。市井の男女の喜怒哀楽の表情を瑞々しい筆致に描いた、藤沢周平の市井短編小説の代表的な作品です。「約束」、「小ぬか雨」「思い違い」など、珠玉十編が収まられています。作家の井上ひさしさんは、藤沢周平作品をもとに架空の小藩・海坂(うなさか)藩の詳細な城下図を作ったほどの藤沢ファンで知られています。その井上ひさしさんが、この本の解説を書いています。一部を引用させて頂くと、「故植草甚一氏風にいえば「雨の静かに降る日は、藤沢周平の職人人情もの、市井人情ものが一番ぴったりだ」ということになりましょうか。「橋ものがたり」などは、梅雨どきの土曜の午後のひとときを過ごすのにはもってこいです」。梅雨のひと時、肩の凝らない短編時代小説はいかがでしょうか


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本の表紙とは関係ありません
『玄鳥』

藤沢周平・著
文春文庫/1994年3月10日第1刷/定価\420


「玄鳥」とは「つばめ」のことです。「つばめが巣づくりをはじめたと、杢平が申しております。いかがいたしましょうか」「巣はこわせ」、夫はにべもなく言った。このような会話で始まるこの短編時代小説は、藤沢周平後期の作品です。静かで、たんたんとしてさりげない格調ある文章。ハッピーエンドで終わる物語ではないけど、読み終わったときに感じる、五月の薫風のようなさわやか感。文庫本のわずか32ページの短編で藤沢時代小説の粋を味わうことができます。藤沢周平短編小説名品中の名品だと思います。末次路(みち)の家は代々物頭を勤める家柄で、夫は婿養子である。路の幼馴染で亡父の剣の弟子だった曽根兵六は、剣才非凡ながら肝心なところで失態を犯す粗忽(そこつ)なところがあった。上意討ちに失敗して周囲から「役立たず」と嘲笑され藩を追われる身となる。出立の前日、路は父が亡くなる前に口伝えに残した秘剣を曽根兵六に伝授する。曽根兵六も、だしぬけに巣を取り上げられたつばめのようだと思う。路は、ほんとうに望んでいた幸せとはどんなものだったのか、そして今終わったことのことを思う。

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